素晴らしかった。感動した。泣いたー。
暗転した瞬間、久々にボーゼンとしてしまいました。
初演、再演とずっとずっと篠井さんのブランチ(この作品の主人公の名前)が大好きで大好きで、今回も当然、楽しみにしていたし期待していたのですが、それ以上に素晴らしい舞台でした。
ちなみにこのブランチという役、男優であればシェイクスピアの『ハムレット』のように、多くの女優が一度は演じてみたい役、の筆頭に上がる役。
それを、女形(いわゆる女性を演じる男性俳優)を標榜している篠井英介さんが演じるということからして、初演の時にはかなり話題になったもの。
これが、男性である篠井さんが演じることで、ブランチという女性の存在の悲しさが際立って見えたんです。
上流階級の家に育ったブランチ・デュボア(篠井英介)は、ニューオリンズに住んでいる妹のステラ(小島聖)を訪ねてくる。
ステラは、地元・ベルレーヴを捨て、軍隊出身のポーランド系アメリカ人、スタンリー・コワルスキー(北村有起哉)と結婚していた。
毎晩のようにポーカーに明け暮れる粗野で暴力的なスタンリーに、嫌悪感を隠さないブランチ。
そしてスタンリーもまた、自分に軽蔑の目を向けるブランチへの憎しみを募らせていく。
そんななか、スタンリーの友人で心優しいミッチ(伊達暁)とブランチは互いに惹かれ合うようになるが……。
初演は、とにかく上演できたということに意味があった舞台(原作者であるテネシー・ウィリアムズの著作権管理者により、男性によるブランチは認められていなかったために、過去に上演中止になった経緯があった)。
再演では、スタンリー役に古田新太という素晴らしい俳優を配し、ただただ粗野で短気な男じゃないスタンリーを見せ、作品に深みを加えた舞台でした。
そして今回の再々演……ブランチ以外の主要な役者を一新して、また新しい『欲望〜』を見せてくれました。
再演の度に新しい挑戦をしているという事実に、演出のスズカツさん、主演の篠井さんの思い入れを感じます。
正直、再演の舞台があまりによかったので、あれ以上のものは観られないって思っていたんですよ。
でもね、全然違う作品に仕上がっていたのが驚きでした。
ある意味で、古田新太さんのスタンリーで完成形だったと思うんですよ。
これまでスタンリーというと、とにかく暴力的で粗野な男として描かれていたのが、古田スタンによって、妻のステラを愛するあまり、2人の幸せを壊しに来た姉・ブランチから自分の幸せを守ろうとする、という構図へと導かれていた感じ。
ステラに暴力的な言葉をぶつけながらも、時にステラに子供のように甘えるスタンは、なんだか時に可愛らしくも見えたりしました。
それが、今回の北村スタンリーは、本当に子供。ブランチのしゃべり方をマネしたりするところなんかも、彼の子供っぽさが出ていたなー。
本当は自分に自信が持てない小さい男なんだよね。
でもそれを隠そうとして必死で強がるあまり暴力的になるし、言われたくないことをズバッと指摘されてしまうからこそ怒り出す。
ああ、いるいる。こんな人(笑)。
そう考えると、もともとステラの出自にもコンプレックスを抱いていたことも明確になってくる。
だからこそ、ブランチに味方するステラにあんなに怒ったんだろうし、ブランチの存在が、本来ならば自分はステラには身分違いの釣り合わない男だと突きつけられているような気にさせるからこそ、彼女を何としても排除しようとしたんだとわかる。
彼のイライラは、じつはビクビクしている心を隠すためのイライラなんだな。
彼もまた、粗野なくせに傷つきやすい男なんだなー。
そしてステラもまた、前回までの久世星佳さんとは違うアプローチでした。
まあ、どちらかというとすらっとしていてカッコいい久世さんと、小柄で可愛らしく色っぽい小島聖さんとでは、同じアプローチをしても逆に無理があるんだと思いますが。
小島さんのステラは、もっと無邪気に盲目的にスタンリーを愛している感じ、とでもいいましょうか。
久世さんが分別がある大人のステラだったのに比べて、小島さんはもっとお嬢様らしい一途さ、真っ直ぐさが際立っていた。
お嬢様っていうのは、昔っからちょっと悪い男に惹かれるものと相場が決まっておりまして(笑)、スタンリーの粗野なところにも好意を抱いてしまっている。
だからこそ、どんなにブランチに酷い仕打ちをしても嫌いになれないどころか、彼に対して同情心に近い愛情を感じてしまったりする。
そして、そんなスタンとステラを受けてのブランチは、これまで以上に気高くて痛々しくて悲しい存在でした。
最初に舞台に現われた瞬間から、どこか不安そうに危うげな儚げな雰囲気を漂わせてコワルスキー家の玄関の前に立っていたのが印象的です。
本当に本当に、繊細で脆弱な人。
だからこそ、没落した人生に堪え切れずに男の人に身を任せることで自分を傷つけるしかできなかったんだろうし、妄想の中に逃げ込まずにはいられなかったんだろうと思う。
あとね、なんだかすごくブランチって色っぽいんじゃないかと思うんですよ、私。
なんか、男の人がメチャクチャにしたくなっちゃうような色気。
篠井さんのブランチ、なんだかちょっとそんな雰囲気があるんです。
不幸を背負っちゃっている匂い、というか、その匂いがまた男の人を引き寄せるというか。
ステラを愛していながらブランチを犯すスタンが「こうなるこちは始めから……」
っていうセリフがあるんですが、ブランチ自身にそう思わせる何かがあるから、そう言うのかも。なんて。
ラストシーン。それまでずっと黒のドレスしか身に着けていなかったブランチが、真っ白な洋服で現われる。
彼女を迎えに来た医者(鈴木慶一)に向かって言う「私はいつも、見ず知らずの人々の親切にすがって生きてきましたの」というセリフで、もう滂沱の涙。
彼女がこれまでどんなに辛い人生を送ってきたのか、推し量るだけでもう泣けてきます。
医者と腕を組んで客席の間をゆっくりと歩いていくシーンは、まるで結婚式のバージンロードのよう。
美しかった。男、だとか、女形、だとか、そんなことはまったく気にならない。
それどころか、女性が演じる以上に女として生まれてきたことの悲しみを感じさせてくれたと思う。
ああ、興奮のあまり長々と書き過ぎてしまいました。
ただでさえ長いと不評のブログなのに……。
でもでも、それだけ熱く語ってしまいたくなるほどに素晴らしい舞台。
ああ、こんな作品に出合えるだけで幸せですわ。
東京グローブ座の公演は、11月25日(日)まで。急いで!
ちなみに当日券は、上演時間の1時間前から劇場窓口にて販売。
以降、11月28日(水)金沢・金沢歌劇座、12月1日(土)新潟・りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場、12月5日(水)大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティ、12月7日(金)北九州・北九州芸術劇場にて上演。
オフィシャルHP:
http://www.duncan.co.jp/web/stage/desire/