昼も夜も芝居づけ

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D-BOYS STAGE Vol.2(羽原大介・脚本/茅野イサム・演出)『ラストゲーム』青山劇場 [2008年06月21日(土)]
 
『テニスの王子様ミュージカル』ブームあたりから、その名前が定着してきた感のあるD-BOYS。
渡辺プロダクションに所属する若手イケメン俳優たちのグループ名なんだけど、気づいてみたら、じわじわと彼らの人気が高まってきていて、いつしか演劇の世界で活躍している若手俳優の1ジャンルのようになっていたという感じ。
実際、私がちゃんと認識し始めたのってここ数年のこと。
いや、最初の頃は「ふーん」くらいにしか思っていなかったんだけど、取材で何度か彼らのうちの数人を取材するうちに、興味が湧いてきたりして……
とはいえ、D-BOYSたちだけの舞台と聞くとどうにも二の足を踏んでしまって、Vol.1の『完売御礼』は結局観に行かず仕舞い。
でも、そういう食わず嫌いはいけないなーと思って、観に行った今回。
それが……思いのほかに良かったんですよー。


↑青山劇場の前にはD-BOYSのグッズ売り場のテントが。その脇には、メンバーが野球部員の扮装をした旗が並び、ファンたちの撮影スポットになっておりました。


将来への希望が見いだせずにいた大学生・ワセダ(城田優)は、自殺サイトで仲間を募り、別荘で彼の来訪を待っていた。
やって来たのは、ケイオーと名乗る青年(柳浩太郎)。
ケイオーもまた、自分の存在意義が見つけられず、ワセダにアクセスしていた。
自殺を思いついてはみたものの、なかなか決心がつかないケイオー。
そんなケイオーの煮え切らない様子に焦れていたワセダは、何気なく置かれていた祖父の日記を手にする。
そこには、日本が戦争に向かっていた時代に、大学野球に青春を捧げた若者たちの記録だった。
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野村萬斎&尾上菊之助・出演/蜷川幸雄・演出『わが魂は輝く水なり』Bunkamuraシアターコクーン [2008年05月14日(水)]
 
こんなこと書くと、ちょっと誤解を受けるかもしれませんが、このしち難しそうなタイトルとは対照的に面白い芝居でした。
主演をつとめるのは、狂言界のプリンス・野村萬斎さんと、歌舞伎界のプリンス・尾上菊之助さん。
どんな高尚な舞台になってしまうのだろうと、じつはちょっと身構えていたりもして。
でも、蓋を開けてみれば、高尚で難解な舞台ではなく、もっともっとストレートに戯曲の面白さを伝えてくれるドラマでありました。

もちろん、蜷川さんらしい華やかで目を引く舞台美術は見ごたえたっぷり。
とくに、冒頭の死屍累々の戦場の場面から一転、背景を覆い尽くすほどの満開の桜の華やかさにハッとさせられました。
舞台のセットが豪華であればいい、とは思わないけれど、こういうところで観客の目を心を惹き付ける演出は、演劇好き以外の観客たちもちゃんと相手にしている蜷川さんのすごいところだと思っております。
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オールナイトニッポン演劇部(小栗旬・演出)『あの夕日に向かって』ニッポン放送・イマジンスタジオ [2008年04月09日(水)]
 
すでにニュースになったり、ワイドショーで放送されたりしているので、ご存じかもしれませんが、俳優の小栗旬さんが初めて演出を手がけた舞台が4月6日(日)に上演されました。
じつは今日の深夜(厳密にいうと明日、ですが)に、この時の模様がラジオ(ニッポン放送『小栗旬のオールナイトニッポン』)で流れます。
というわけで、ちょっとでも放送前に、と思って慌ててアップしている私(笑)。

なんのこと?という読者の方に説明すると、オールナイトニッポン演劇部(以下、演劇部)とは、昨年の番組開始にともなって、小栗さん自らの発案で、リスナーから出演者を募集し、小栗さんが演出家として参加して演劇を上演しようじゃないか、というもの。
ラジオ内で、募集から選抜もおこない、選ばれたリスナーは、中学生の女のコ、高校生の男のコ、社会人の女性の3人。
本当は、昨年の上演をめざしていたのですが、『情熱大陸』なんかで放送されたように、とにかく小栗さんの殺人的な超多忙スケジュールでなかなか実現できず、この時期になった、というのが経緯です。

じつは、『Top Stage』という雑誌でこの演劇部を追い掛けておりまして、演劇部員が決定した辺りから、ここまでの様子を切れ切れではありますが拝見させていただいておりました。
部員の3人は、まずはお芝居に馴れる、ということでラジオドラマに出演し、その様子なども取材させてもらったりして。

そんな訳で、なんだか気持ち的にすごく自分が応援モードだった今回の公演。
だって、この演劇部の3人が、ラジオの中で声だけで選んだとは思えないくらい、ちゃんとしていて、しかも明るくて周りに気も遣えて、ほんとうに素敵な人たちなんです。
へんに気負ったところもなければ、へんな欲もなくて、演劇部への思いが純粋。
小栗さん自身も話しましたけど、本当にいい人たちが集まったな、というのが素直な感想です。

で、公演なんですが……
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浅丘ルリ子&渡辺えり『恋はコメディー』ル・テアトル銀座 [2008年02月21日(木)]
 
会社をリストラされ、ヤケになった男・ギョーム(石井一孝)がとある屋敷に泥棒に入った。
しかし、銃をつきつけて脅しても家人は一向に怖がりもしない。
それもそのはず、その屋敷の主は、なんと世にも有名な女盗賊、セリーヌ&アンナ(浅丘ルリ子&渡辺えり)だった……。

以前に「おかしな二人」で共演し話題を集めた浅丘&渡辺のコンビで挑んだ作品。
正直、前作は戯曲に恵まれていたな、と思います。
ニール・サイモンの小粋なセリフと軽妙で洒落の効いた展開は、二人の凸凹ぶりと相まってなんだか妙におかしかったものです。

ただ、今回はなんだかセリフが上滑り気味。
これ、きっと戯曲のせいだと思うのですが、浅丘さんも渡辺さんも(そして石井さんも!)
セリフがすとんとハマってないんです。
セリーヌがギョームを翻弄するセリフとか、セリーヌの気風のよさが出たアネゴっぽい物言いも明らかにセリフです、という粋を越えていないというか。

ただ、渡辺えりさんのうまさは、このセリフのおちつかなさを入れても余りあるくらいに実感。
石井さん扮するギョームに色気で迫ってみたり、時に力でねじ伏せようとしたり、コロコロと態度を変える身代わりの早さといったら。
遊び過ぎず、出しゃばり過ぎず、絶妙な力量加減でもって軽妙に演じて見せていたのがすごい。
NODA MAPやナイロン100℃、宇宙堂(最近、3○○に名前を戻したんでしたっけ?)でも拝見しておりますが、こういう場面でその実力が発揮されるんですねー。

石井一孝さんの妙なテンションの高さや、明るさもギョームという役にぴったり。
もちろん、主役の浅丘さんも、年はとってもやっぱり美しくて魅力的なセリーヌ、という役がぴったりとハマって可愛らしかったです。

気になったのは後半、セリーヌの息子・ピエール(風間俊介)と恋人のナターシャ(秋吉久美子)が現われて、ナターシャの本当の目的が明るみになる場面。
なんだか妙に予定調和的な雰囲気で、まるでどんでん返しのおもしろさを感じられませんでした。
ほんとこれ、残念。
もうひとつ、アンナがナターシャを裏切る場面。ここも、どうにもその前のシーンとの繋ぎが悪くて、まったく感情移入できず。

とはいっても、劇場がテアトル銀座で、私の席は通路よりも後ろ、だっただけに席の所為?と思う向きも。
この劇場って、どうも通路から後ろの席って舞台がものすごく遠く感じてしまって、まるで額縁の向こうを対岸から眺めているような雰囲気になってしまうんですよね。
なんだか妙に引いた目線で舞台を見てしまったのも、それが一因としてあることは間違いないと思う。

演劇ってやっぱり劇場選びを重要な要素だと思う。
以前に、KERAさんが『劇団健康』の復活公演で、紀伊国屋サザンシアターのことなんかをネタにしていたけれど、ほんと舞台と客席が一体になれない劇場というのも、哀しいかな、ある。
テアトル銀座は、通路より前の席であれば、さして問題なく舞台を楽しめると思う。
しかし、通路後半は本当に哀しい。
私の隣に座っていた年配の家族連れも、やはり舞台に集中していないようだった
ああ、なんだか舞台のことよりも劇場の愚痴になってしまった。

まあともかく、舞台、だ。
浅丘さんの歳をとってもなお衰えないチャーミングさ、渡辺えりの絶妙な間とちょい大げさなパフォーマンスで見せる笑いの芝居のうまさ、石井さんのハイテンションぷりを楽しみに行くのであれば、ぜひどうぞ、といったところか。
回を重ねれば、セリフも板についてくるのだろうと期待をこめて。

3月5日(水)秋田県民会館、6日(木)福島県文化センター、7日(金)山形県民会館、9日(日)静岡富士・ロゼシアター、11日(火)兵庫芸術文化センター、13日(木)なら100年会館、14日(金)・15日(土)大阪厚生年金会館芸術ホール、17日(月)岡山市民会館、18日(火)広島厚生年金会館、20日(木・祝)北九州・九州厚生年金会館、21日(金)・22日(土)福岡市民会館、23日(日)長崎佐世保・アルカスSASEBO、26日(水)仙台・電力ホール
とこうして挙げてみると、すごいスケジュールで全国まわるんですね〜。
出演者の皆様、お体は大切に(←余計なお世話)。
東宝ステージのHP:http://www.tohostage.com/koicome.html

前川知大・脚本 青木豪・演出『ウラノス』青山円形劇場 [2008年02月16日(土)]
 
すごいです。この組み合わせ。
小劇場の注目クリエイターふたりがガップリ組んだこの舞台。
これこそ、ドリームチームってやつじゃないですか?

……ってなんのことやら? って方のためにご説明いたしますと、脚本を担当している前川さんは、イキウメという劇団で作・演出を手がけている方。
ちなみに昨年には、舞台で上演した『散歩する侵略者』を小説化し、作家としてもデビューしました(『散歩する侵略者』のレビューはこちら
で、青木豪さんはといえば、グリングという劇団を主宰していまして、こちらもまた作家・演出家として活躍されております。
最近では、劇団☆新感線の『IZO』の脚本を手がけてまして、最近あちこちから脚本のオファーを受ける売れっ子作家さんでもあります。(『IZO』のレビューはこちら

前川さんの作品は、日常のなかのSFホラー。
身近な世界の物語のなかに、いつの間にか超現実の世界が忍び込んできている、そんな物語を描くかた。
その移行の仕方が見事で、超現実でありながら妙にリアルに感じてしまう。
その演出方法は、どこか映像的で、シンプルなセットに、シーンを断片的に繋げたような展開。

青木さんの作品はといえば、こちらは本当に淡々とリアルに日常を描いたもの。
なんでもない会話のなかの心理的な駆け引き、心の動きをきっちりと描き出しているから、感情移入し、共感し観られる芝居。
こちらは、住む人の匂いまで伝わってくるようなリアルなセットで、ほぼワンシチュエーションで進む、切れ目のない展開で見せる。

ふたりの作風も演出方法も、まったく違うだけに、どんな作品になるのか、ひょっとしたら互いの持ち味が出せずに終わってしまうんじゃないかと心配していたのですが、それがいい方向に作用して、かなりクオリティの高い作品になっておりました。

物語は、とある田舎街に、都会からひとりの女性(酒井美紀)が帰省してくる。
彼女の実家は、その田舎町の古い一軒家。両親が死んだ後、そこには彼女の妹がたったひとりで住んでいた。
そんななか、地質調査のために、その家の庭を買いたいと申し出る業者が現われる。
しかし、その庭は古くから忌まわしい言い伝えが残る場所。
家を守ろうとする妹に、業者は強気な態度で売却を迫る。
やがて、その庭にある大きな穴が、じつは異空間と繋がったブラックホールだという事実がわかり……
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中井貴一・段田安則・りょう/出演『二人の約束』パルコ劇場 [2008年02月12日(火)]
 
芝居は観ているのに、なかなか更新できてなくてすみません。
近々、あれこれとアップします。

とり急ぎ中井貴一さんと段田安則さんという、芸達者なおふたりがタッグを組んだ舞台の第2弾。
いつの間にか、「劇団ふたり」なんて名前がついておりました(笑)。
ちなみに作演出は、福島三郎さん。
福島さんは、もともと三谷幸喜さんの東京サンシャインボーイズで演出補をやっていた方。
なんでもない日常のなかに起こる、ちょっとした優しいエピソードをユーモアを交えて描いてくれる作家さんです。

今回の作品は、古道具屋を営む小太郎(中井)と、その家を塀の向こうから覗こうとして塀から落ち、25歳以降の記憶を失ってしまった大作(段田)の物語。
小太郎の元には、幼馴染みでその家の大家の娘でもあるめぐみ(りょう)がちょくちょく訪れ、大作の存在を訝しむ。

大きな事件は起こらないけれど、世界中を回っていわく付きの品物を買ってくる小太郎の仕入れの話など、物語の本筋のほかに描かれているエピソードがいい味わいを出していて、全体をほのぼのとした明るい空気で包みます。

とはいえ、ただただ“いい話”だけで終わらないのがいいところ。
ちょっとしょっぱかったり、チクチクと胸が痛い出来事もある。
けれど、それでもちゃんと彼らは乗り越えていこうとする。
そうやって乗り越えられる強さを持っているのも、支えてくれたり応援してくれたりする周りの人たちがいるから。

人間は最終的にはひとりでしかない。
それでも強く生きてこれるのは、家族がいたり友達がいたりご近所さんがいたりするから。
そんな当たり前だけれど、当たり前すぎて忘れていることをあらためて感じさせてくれるのが、福島さんの物語の素敵なところです。

後半に向けて、大作のなくした記憶、そして小太郎がずっと忘れずにいる30年前の約束が少しずつ見えてきます。
ちょっと強引かなーと思う展開もありましたけれど、それもまたご愛嬌と思えてしまう愛嬌のある舞台です。

りょうさんも、これが初舞台ということだったのですが、とてもよかった。
肩に力が入ることもなく、とはいえ映像のお芝居をそのまま舞台に持ってきてしまって客席にまで伝わらない、なんてこともなく、自然で軽快な演技をされていて、いまさらだけど上手い女優さんなんだなぁと。
もちろん、中井さん段田さんは言わずもがな。
3人の作り出す雰囲気がとてもよくて、それが物語に滲みだしておりました。

ほっこりとしたいい気分で劇場をあとにすることができました。
2月だけど、まだまだ寒い毎日にいいお芝居です。

東京公演は2月24日(日)まで。
2月26日(火)には名古屋・中京大学文化市民会館プルニエホール、
3月1日(土)・2日(日)には大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!にて上演。
パルコ劇場のHP:http://www.parco-play.com/web/play/promise/

蜷川幸雄演出 平幹二朗・主演『リア王』さいたま芸術劇場 [2008年01月26日(土)]
 
重苦しかった。感動した。いろんなことを考えさせられた。
正直、シェイクスピアの書く戯曲のよさ、そのおもしろさを本当の意味で知ることのできた舞台かもしれない、とも思う。

とにかく、リア王の平幹二朗さんが素晴らしい。
シェイクスピアってセリフが詩のようで、とくにこの作品はドラマティックゆえに、役の感情以上に気持ちをのせて朗々と謳い上げてしまう役者も多い。
しかし、平さんは極力抑え目に抑え目に、静かなトーンで王の哀しみや怒り、絶望を嘆く。
激しく狂乱するのではなく、心が押しつぶされて狂気と正気のあわいをゆらゆらと彷徨うリアは、強大な権力を振るった王ではなく、弱った憐れな老人だ。
昔、大学の授業でこの戯曲を読んだ時には、真実を見る目を持たずに目に見えるもの、耳に聞こえるものだけしか信じない老王の転落人生の物語のように感じたけれど、今作では“老い”を深く意識させられた。
祇園精舎ではないけれど、どんなに栄華を誇った者であっても人は必ず老い、弱き者へと変わってゆく。
盛者必衰といわれるけれど、時の流れの前に権力も金も地位も何の役にも立たず、ただ受入れていくしかない人間の背負った運命が老いなんだな、と。
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大竹しのぶ&白石加代子・出演 長塚圭史・演出『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』パルコ劇場 [2007年12月08日(土)]
 
凄い芝居を観た。
思い出そうとするだけで、こみ上げてくるものがあるくらいに。

白石加代子さんと大竹しのぶさん、誰もが認める日本を代表する女優2人の組み合わせだ。
2人が出演されるというだけで、怨念だとか、そういう人間のドロドロしたところをもろに感じさせる重たい芝居のイメージだった。
もちろん、舞台の上で両者は互いに憎しみ合い、罵声を浴びせ合ってはいた。
でも、そんな罵り合うふたりが、苦しいくらいに切なくて切なくて悲しい芝居だった。


辺境の地、アイルランドの小さな小さな街、リナーン。
丘の上にポツリと建った一軒家に住まうのは、病を患う偏屈な母・マグ(白石加代子)と、40歳になっても母親の支配下にある娘・モーリーン(大竹しのぶ)。
母は病気なのをいいことに、娘を家に縛りつけて身の回りの世話をすべてさせており、一方のモーリーンは、そんな母に面と向かって罵りの言葉を浴びせながらも同居を続けていた。
そんなある日、一時的にリナーンへと戻ってきている、イングランドへ出稼ぎに出ているパド(田中哲司)と再会したモーリーン。
二人は意気投合し、深夜に母親が寝ているモーリーンの家でキスを交わし合う。
翌朝、目を覚ましたマグはパドと顔を合わせて激怒する。

一幕が終わったときに、ふと思ったのは、人間は孤独だということ。
血の繋がった親子でも、他人同士でしかないんだと思った。
それでも、孤独ゆえに誰かを求めてしまうのだ。

とにかくふたりの応酬が壮絶だ。
親子だからこそ、ここまで非情になれるんだろうと思うくらいに。
しかし、そこにあるふたりの心の奥底にあるものは同じなんだと思える。
この現実にある地獄から抜け出したい、ということだ。
マグは、いつかモーリーンが自分を捨てて出て行ってしまい孤独になるかもしれないという地獄。
モーリーンは、自分がたったひとりで母親に延々と縛られ続けるのではないかという恐怖。
そんな孤独感に耐えられずに、ふたりは互いを憎しみ合うことで恐怖を埋めるしかないのだ。

物語の底辺に流れているのは、アイルランドという国の孤独、だ。
アイルランド人としての自らのアイデンティティを奪われ、イングランドから差別され続けてきた人々の悲しみの物語だ。
正直、世界史にも地理にも人種問題にも詳しくない、というか、聞きかじった程度の知識しかないけれど、土地の持つ差別の歴史や背負ってきたものの大きさを感じることのできる芝居だった。

それは、ひとえにこの2人の素晴らしい女優のなせる技だと思う。
存在そのものが、この土地で生きるしかない孤独な女の人生を語っていたと言っても、けっして大げさではない。
そうでなければ、ふたりが罵り合う姿にこれほど感動しなかったと思う。
感動、という言葉は当てはまらないかもしれない。血が駆け巡る想い、というのが適当か。
とにかく、ふたりの迫力、ぶつかり合うパワーに、心がガンガン揺さぶられ、衝撃を受けた。
ああ、こうやって書いているだけでもちょっと涙が出るくらい……。

演出家・長塚圭史&脚本家・マーティン・マクドナー、この組み合わせって本当に最強かも。
長塚さんの持っているセンチメンタリズムが、マクドナーの抱えている孤独といい感じに共鳴し合っているんじゃないかと思う。

ああそういえば、体調不良で本番直前に黒田勇樹さんが降板し、代わりに長塚さんがレイ(パドの弟)役を演じていた。
この交代劇が吉と出るか凶と出るかとドキドキしていたけれど、少なくとも長塚さんのレイ、いい加減で堪え性がなくて、よかったと思う。
もちろん、パド役の田中哲司さんも。
田中さんって色気があるというか、女ゴコロをくすぐる何かがある俳優だなー。
『欲望という名の電車』のミッチといい、主人公が惹かれていくのがよくわかる。
『ガラスの動物園』のジムとかもやって欲しいなぁ(超個人的希望)。

とにかく、重〜い芝居だけれど、それだけずしりと心に何かを残してくれる作品。
壮絶な女優ふたりのバトルを観るだけで十分価値のある舞台だけに見逃すべからず、です。

12月30日(日)まで、パルコ劇場にて上演中。(当日券は60分前から先着順で発売しておりますよ。ぜひ)
大阪公演は、2008年1月4日(木)〜6日(日)まで、梅田芸術劇場シアタードラマシティにて。
パルコ劇場のHP:http://www.parco-play.com/web/play/beauty/
ここの「マーティン・マクドナー×長塚圭史」で、過去に長塚さんが演出したマクドナー作品の情報も観られます。

こまつ座『円生と志ん生』紀伊國屋サザンシアター [2007年11月28日(水)]
 
こまつ座とは、劇作家の井上ひさしさんが主宰する劇団で、もちろん、上演するのは井上さんの作品。
井上ひさしさんというと、昔、NHKに所属していてあの有名な『ひょっこりひょうたん島』の脚本を書いていたという経歴を持っていたりする方ですが、その戯曲はとにかくセリフひとつひとつが本当に珠玉のよう。
何気ない言葉のやりとりに親子の愛や友情、思いやりや労りを感じさせて、派手な展開がなくとも、じわーっと心に染みてくるような物語ばかり。

今作は、タイトルからもわかるように落語家2人の物語。
いまでも名人といえば名前が上がる六代目三遊亭円生と五代目古今亭志ん生の2人が、名人になるより前、戦争中に満州に慰問に訪れる。
大陸で敗戦を迎えた2人は、その後の混乱で日本に帰国する術を失い、終戦から2年間大連での生活を余儀なくされる。

これ、基本的にはフィクションなんだけど、2人が旧満州に慰問に行って2年間帰国できなかったというのは本当にあった事実なんだそう。
敗戦が伝えられたと同時に、これまで中国を侵略していた日本人の立場が逆転。
慰問に訪れていたということで軍に加担したと見なされて、2人も戦争犯罪人のリストに名前を書き連ねられ、必死で身を隠したり、日本行きの船への乗船を希望する日本人の多さに法外な船賃を請求され、その上じつは詐欺だったり、ととにかく苦労の連続。
あの当時、日本に帰るというたったそれだけのことが、あんなにも大変だったんだな、としみじみ。
近頃、戦争犠牲者の高齢化が進んで、すっかり陰が薄くなってしまった感があるけれど、中国残留日本人孤児の方々があれだけたくさんいたのも、なるほどこういう時代だったからなのね、といまさらながらに再認識したりして。
いい大人の男でさえも生き伸びていくのがやっとの土地で、幼い子供を抱えて絶望した親たちは多かったと思う。
子供の将来を考えるからこそ、中国人としてこの土地で生きていくことのほうが幸せだと思えたりしたんだろうな。いわゆる苦渋の選択ってやつだ。

それでも井上ひさしさんの作品の素晴らしいところは、そうやって苦労した彼らの姿を描きながらも、悲惨さよりもむしろ明るくおもしろおかしい物語にしている点。
交渉事に弁が立ち、謙虚になることを知っている世渡り上手の円生は、うまく大連の未亡人と期限付きの結婚をして非常時をうまく乗り越えようとするけれど、落語ひとすじの不器用な志ん生は、上手く立ち回ることができずに貧乏を重ねて、日本人のクリスチャン達の世話になる。
落語、つまりお笑いを知らない敬虔なクリスチャンの尼僧たちは、はじめは志ん生が繰り出す笑いをなかなか理解できずにいるけれど、やがて笑いに救われていく。
笑いって、武器のように戦うことはできなくても、人に希望を与えたりっていう人生に大切なスパイスにはなる。

戦争中の物語だけど、戦争の話に終始しないところに井上さんの手腕をかんじました
派手なお芝居ではないけれど、観て気持ち良く楽しくなれるのがすばらしい。

上演は、12月2日(日)まで。
こまつ座HP:http://www.komatsuza.co.jp/

篠井英介・主演 鈴木勝秀・演出『欲望という名の電車』東京グローブ座 [2007年11月24日(土)]
 
素晴らしかった。感動した。泣いたー。
暗転した瞬間、久々にボーゼンとしてしまいました。
初演、再演とずっとずっと篠井さんのブランチ(この作品の主人公の名前)が大好きで大好きで、今回も当然、楽しみにしていたし期待していたのですが、それ以上に素晴らしい舞台でした。

ちなみにこのブランチという役、男優であればシェイクスピアの『ハムレット』のように、多くの女優が一度は演じてみたい役、の筆頭に上がる役。
それを、女形(いわゆる女性を演じる男性俳優)を標榜している篠井英介さんが演じるということからして、初演の時にはかなり話題になったもの。
これが、男性である篠井さんが演じることで、ブランチという女性の存在の悲しさが際立って見えたんです。

上流階級の家に育ったブランチ・デュボア(篠井英介)は、ニューオリンズに住んでいる妹のステラ(小島聖)を訪ねてくる。
ステラは、地元・ベルレーヴを捨て、軍隊出身のポーランド系アメリカ人、スタンリー・コワルスキー(北村有起哉)と結婚していた。
毎晩のようにポーカーに明け暮れる粗野で暴力的なスタンリーに、嫌悪感を隠さないブランチ。
そしてスタンリーもまた、自分に軽蔑の目を向けるブランチへの憎しみを募らせていく。
そんななか、スタンリーの友人で心優しいミッチ(伊達暁)とブランチは互いに惹かれ合うようになるが……。

初演は、とにかく上演できたということに意味があった舞台(原作者であるテネシー・ウィリアムズの著作権管理者により、男性によるブランチは認められていなかったために、過去に上演中止になった経緯があった)。
再演では、スタンリー役に古田新太という素晴らしい俳優を配し、ただただ粗野で短気な男じゃないスタンリーを見せ、作品に深みを加えた舞台でした。
そして今回の再々演……ブランチ以外の主要な役者を一新して、また新しい『欲望〜』を見せてくれました。
再演の度に新しい挑戦をしているという事実に、演出のスズカツさん、主演の篠井さんの思い入れを感じます。

正直、再演の舞台があまりによかったので、あれ以上のものは観られないって思っていたんですよ。
でもね、全然違う作品に仕上がっていたのが驚きでした。

ある意味で、古田新太さんのスタンリーで完成形だったと思うんですよ。
これまでスタンリーというと、とにかく暴力的で粗野な男として描かれていたのが、古田スタンによって、妻のステラを愛するあまり、2人の幸せを壊しに来た姉・ブランチから自分の幸せを守ろうとする、という構図へと導かれていた感じ。
ステラに暴力的な言葉をぶつけながらも、時にステラに子供のように甘えるスタンは、なんだか時に可愛らしくも見えたりしました。
それが、今回の北村スタンリーは、本当に子供。ブランチのしゃべり方をマネしたりするところなんかも、彼の子供っぽさが出ていたなー。
本当は自分に自信が持てない小さい男なんだよね。
でもそれを隠そうとして必死で強がるあまり暴力的になるし、言われたくないことをズバッと指摘されてしまうからこそ怒り出す。
ああ、いるいる。こんな人(笑)。
そう考えると、もともとステラの出自にもコンプレックスを抱いていたことも明確になってくる。
だからこそ、ブランチに味方するステラにあんなに怒ったんだろうし、ブランチの存在が、本来ならば自分はステラには身分違いの釣り合わない男だと突きつけられているような気にさせるからこそ、彼女を何としても排除しようとしたんだとわかる。
彼のイライラは、じつはビクビクしている心を隠すためのイライラなんだな。
彼もまた、粗野なくせに傷つきやすい男なんだなー。

そしてステラもまた、前回までの久世星佳さんとは違うアプローチでした。
まあ、どちらかというとすらっとしていてカッコいい久世さんと、小柄で可愛らしく色っぽい小島聖さんとでは、同じアプローチをしても逆に無理があるんだと思いますが。
小島さんのステラは、もっと無邪気に盲目的にスタンリーを愛している感じ、とでもいいましょうか。
久世さんが分別がある大人のステラだったのに比べて、小島さんはもっとお嬢様らしい一途さ、真っ直ぐさが際立っていた。
お嬢様っていうのは、昔っからちょっと悪い男に惹かれるものと相場が決まっておりまして(笑)、スタンリーの粗野なところにも好意を抱いてしまっている。
だからこそ、どんなにブランチに酷い仕打ちをしても嫌いになれないどころか、彼に対して同情心に近い愛情を感じてしまったりする。

そして、そんなスタンとステラを受けてのブランチは、これまで以上に気高くて痛々しくて悲しい存在でした。
最初に舞台に現われた瞬間から、どこか不安そうに危うげな儚げな雰囲気を漂わせてコワルスキー家の玄関の前に立っていたのが印象的です。
本当に本当に、繊細で脆弱な人。
だからこそ、没落した人生に堪え切れずに男の人に身を任せることで自分を傷つけるしかできなかったんだろうし、妄想の中に逃げ込まずにはいられなかったんだろうと思う。
あとね、なんだかすごくブランチって色っぽいんじゃないかと思うんですよ、私。
なんか、男の人がメチャクチャにしたくなっちゃうような色気。
篠井さんのブランチ、なんだかちょっとそんな雰囲気があるんです。
不幸を背負っちゃっている匂い、というか、その匂いがまた男の人を引き寄せるというか。
ステラを愛していながらブランチを犯すスタンが「こうなるこちは始めから……」
っていうセリフがあるんですが、ブランチ自身にそう思わせる何かがあるから、そう言うのかも。なんて。

ラストシーン。それまでずっと黒のドレスしか身に着けていなかったブランチが、真っ白な洋服で現われる。
彼女を迎えに来た医者(鈴木慶一)に向かって言う「私はいつも、見ず知らずの人々の親切にすがって生きてきましたの」というセリフで、もう滂沱の涙。
彼女がこれまでどんなに辛い人生を送ってきたのか、推し量るだけでもう泣けてきます。
医者と腕を組んで客席の間をゆっくりと歩いていくシーンは、まるで結婚式のバージンロードのよう。
美しかった。男、だとか、女形、だとか、そんなことはまったく気にならない。
それどころか、女性が演じる以上に女として生まれてきたことの悲しみを感じさせてくれたと思う。

ああ、興奮のあまり長々と書き過ぎてしまいました。
ただでさえ長いと不評のブログなのに……。
でもでも、それだけ熱く語ってしまいたくなるほどに素晴らしい舞台。
ああ、こんな作品に出合えるだけで幸せですわ。

東京グローブ座の公演は、11月25日(日)まで。急いで!
ちなみに当日券は、上演時間の1時間前から劇場窓口にて販売。

以降、11月28日(水)金沢・金沢歌劇座、12月1日(土)新潟・りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場、12月5日(水)大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティ、12月7日(金)北九州・北九州芸術劇場にて上演。

オフィシャルHP:http://www.duncan.co.jp/web/stage/desire/
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プロフィール
プロフィール
望月リサ。ライター。女性誌やWebサイトでインタビューやカルチャー関連の記事を担当。締め切り間際でも観たい舞台は絶対にハズさないステージフリーク! 「ライブじゃなきゃ味わえないこと、いっぱいあります。ハマるとこんなにすばらしいものはないです。劇場にもっともっと足を運びましょっ。」
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