最初に断っておきます。これ、本当に傑作でした。
私個人としては、KERA作品のなかでも3本の指に入る傑作(ちなみにあとの2本は『フローズンビーチ』と『カラフルメリィでオハヨ』)。
上記のポスターからもわかる通り、KERAさんの作るものっていうのは何だかスタイリッシュというか「洒落てる」んです。
私、基本的に「オシャレ〜」みたいなものが苦手なんですけど、KERAさんの作る世界は別。
なんだか「オシャレ〜」にある「とりあえずオシャレにしとくとイケてるでしょ」みたいな匂いがないから。
たぶん、KERAさんって本当にセンスがいい人なんだと思う。
だからこそ、デザインも優れたものが好きだし、役者も勘のいい人が好きなんだろうな。
今回の舞台、全体的にすばらしいところは満載なのだけれど、とくに驚かされたのが照明と映像。
舞台は古い日本の家(日本家屋と呼ぶとちょっと違うか?)なのだけど、その陰影にすごくこだわっているのがわかるんです。
たとえば、階段の柱や障子の桟の影がズレる、という演出があるんです。
これ、言葉では上手に説明できないのだけれど、おそらく照明じゃなく映像で作っているのだけど、これがちょっとびっくりするんです。
舞台の照明がかなり暗くなったかと思うと、そこに浮かび上がっていた影が、徐々にズレていく……これからの物語の展開を暗示しているような奇妙さもあるけれど、おもわずキレイ、と思ってしまったりして。
あと、冒頭に近い坂井真紀さん演じる類子が、襖を開けて奥に引っ込むシーン(わかる人だけに説明すると、父親が志田潤を連れてきたことに反発して居間から出ていくところ)。
ここまでがプロローグで物語が始まるのですが、ここ映像をすごく上手に使っていて、後方の席で見ていた私は、最初、映像だと気付かずに驚いちゃいました。
いやー、かっこいいし新鮮。
こういう映像の使い方があるんだな、と感心してしまった。
物語の始まりは、31年前。小説家・柏木伸彦(廣川三憲)と妻の基子(松永玲子)、娘の立子(犬山イヌコ)、艶子(峯村リエ)、類子(坂井真紀)、そして伸彦の書生・三好未完(三宅弘城)は、とある田舎に引っ越してくる。
やがて、父の影響で長女の立子は小説を書き始め、若くして天才小説家と騒がれるようになる。
父の伸彦は、そんな娘を脅威に思い始め、次女の艶子をかわいがるのだった。
そんななか、妻の基子が精神を病み始め、夫婦は別居することとなる。
6年が過ぎ、伸彦は若い恋人・志田潤(長田奈麻)を家に入れ、長く別居していた基子と正式に離婚を申し入れる。
とにかくディティールが細かくて、それぞれの些細な出来事がすべてに複雑にからみ合っていて、あらすじがはしょれないのがKERA作品の特徴。
じつはこの後、大人になった柏木家の三姉妹を中心に物語が進んでいくことになるんですが、何気ない場面に、姉妹それぞれが家族に抱いている気持ちがじわじわっと出ていて、これがまたいいんだなー。
姉妹って一番近い女友達でもあり、最も比べられやすいライバルでもあり、同じDNAを持つ家族(言ってしまえば、両親よりも兄弟のほうがDNAの共通部分は多いはず)。
しかも、幼い頃に母親が精神を病んで別居し、その後に継母がやってきたり、と複雑な事情を共に抱えて成長してきているだけに、その複雑さといったら…。
父親は長女・立子を嫉妬し、立子は父親に可愛がられる艶子を羨み、逆に艶子は才能を持った立子(小説家)と類子(女優)を羨んでいる。
母・基子に可愛がられていた類子は、志田潤を嫌悪する。
ああ、あるなぁ。家族、とくに同性同士だからこそ、どうにもならなくてモヤモヤとしてしまうことって。
なんか、こういう物語でした、とは簡単に説明できない作品だけれど、観終わった後のじわじわと押し寄せる感動とか悲しみとか、温かさとか、さすがKERAさんです。
もちろん、KERA作品らしい笑いもあって、重たい家族の物語で終わらず、ちゃんと笑わせてくれるエンターテインメントでもありました。
劇場での折り込みパンフにKERAさんも書いてあったんだけど、昨年、コクーンで上演された『労働者M』以来、1年8か月の断筆をして書き上げたのが『犯さん哉』と、この『わが闇』だということ自体、本当にKERAさんって素晴らしい。
今回のチラシに、ナイロン100℃を「奇跡的なチーム」と書いているKERAさんのコメントが載っていたけれど、本当に奇跡的に集まったチーム、だと思う。
KERAさん独自の笑いの世界を理解して(笑いの共通言語、とKERAさんは言ってましたね)いて、しかもそれを表現できて、笑いだけじゃない叙情的な芝居もできる。
みんな、巧みですわ。すばらしいです。
奇跡的に集まった集団が創り上げた傑作をぜひとも。これを見逃したら後悔すること間違いなしです。
東京公演は12月30日(日)まで。当日券は開演の1時間前から劇場で販売。
大阪公演は、1月13日(日)・14日(月・祝)にイオン化粧品・シアターBRAVA!にて。
以降、1月17日(木)〜19日(土)札幌・道新ホール、
1月23日(木)広島・アステルプラザ、
1月26日(土)・27日(日)北九州芸術劇場、
1月30日(水)・31日(木)新潟・りゅーとぴあにて上演。
ナイロン100℃のHP:
http://sillywalk.com/nylon/